· 

光國光七郎著「SDGs時代の経営管理と心根」を読んで

 社会人の立場で学んだ早稲田大学理工学術院創造理工学研究科経営デザイン専攻時代の恩師、光國光七郎先生から本書を頂戴し、懸命に読んだ。
 大学院での先生の授業は主に在庫理論であった。在庫管理は経営上、損益計算書に直結する致命的な課題であり、黒字倒産の元凶ともなる。先生の授業はそのことを、サプライチェーンマネジメントの観点から解明した、画期的なメソッドであった。
 本書は、さらにそのベースともなる経営管理の仕組みと、それを支える経営者~従業員の心の在り方を説いている。事業体としての企業は、本来「全体」としてひとつであるものを、効率を目的に「分業」として細分化したために、組織内のバランスが損なわれ、その弊害が部門間の軋轢や従業員のストレスとなって顕在化する。
 分業により分割した機能を、全体として統合するために経営管理の仕組みが必要であり、またそれを支えるものが情報連携であるが、細分化したものを「統合」するのはは容易なことではない。業績の結果で従業員は評価されるが、経営管理の仕組みは評価されず、また、従業員の志が高いと、経営管理の仕組みのまずさが隠れるからである。ゆえに、「統合」のまずさを改善する源泉力は人間の善なる心根の働きであるとして、本書のテーマである「多様性の調和による統合の原理」を仏教哲学の観点から解説している。
 筆者はご自身の古巣である日立での実体験をもとに、「管理活動が賢明であれば経営層を支えることができ、かつ、管理活動が健全であれば経営層の暴走を食い止めることができる」とも述べている。私は、この点は是非期待を持ちたいと同時に、最近の複数の企業不祥事の事例(特に経営の暴走)からは楽観できないと痛感している。それだけに、筆者が指摘する「不正を防ぐための経営の仕組みは重要だが、仕組みは無機的であるため、仕組みを運用する人間自身の高い境涯、フロネシスのような善性の志が必要」との主張が本書の核心と理解した次第である。
 これに関連して、本書の中で引用されているA.J.トインビーと池田大作の次の対談内容は極めてい興味深い。
・「組織を機械視してけない、高度な有機的生命体としてみるべき」
・「組織を構成する部分はあくまで人間、個人はひとつの全体的存在で組織全体よりも尊い」
 筆者が学んでこられた大乗仏教の教えに関する解説は門外漢の私には難解だが、「フロネシス」「善性」など、野中郁次郎氏の主張に通じるものであることが理解できれば抵抗なく読めた次第である。
 「経営ガバナンスの優等生と称された企業が不祥事を起こす」事例が後を絶たないが、まさに「仕組み」が「心」に響き、「心」に支えられた「仕組み」でなければ企業本来の目的の達成は困難、というのが私の読後感である。
 そして、この「心」の問題は、8月27日のブログでご紹介した「U理論」の「プレゼンシング」にもつながるのではないか?とかすかな光が見え始めている。
こうして、果てしない「旅」が続く。
光國光七郎著「SDGS時代の経営管理と心根 多様性の調和による統合の原理に学ぶ」早稲田大学出版部
http://www.waseda-up.co.jp/economics/sdgs.html

 

#SDGs #経営管理 #企業不祥事防止 #イノベーション