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組織の誤りの渦中にいる個人

もう一月ほど前の話になりますが、株主総会の議決権集計を受託している信託銀行が、総会直前の締切日の扱いについて不適切な点があった問題が報じられています。

本来は株主総会前日までに到着した議決権行使書は有効であるにも関わらず、この信託銀行では事務処理平準化のために郵便局に1日早く配達してもらっていたことから、総会前日に受領したものは「締め切り後」扱いとして集計対象からはずしていました。

日本企業の株主総会は毎年6月下旬に集中し、しかも電子化が遅れているために大量の紙処理が株主総会直前に集中するため、このような便法を長年に亘り採用していたとのことです。

 

「法的には事実上前日に受領していれば当然に有効にすべきで、このような便法は不適切で日本の株式制度の信頼に関わる大問題だ」という新聞の論調や証券取引所のコメントはもっともなことです。

特に今回問題となったきっかけが海外の「物言う株主」からの指摘だったことからも、うやむやにすべきではないことは明らかです。

 

私がこの件に関して強く関心を持つのは、長年に亘りこの方法が継続していたことから、社内この実情を知ってる人は1人や2人ではないはずだ、という点です。

そして、もしも自分がその当事者の1人であったならば、何をすべきか、また何ができたか、という点です。

もしも誤りに気づき、正義感を発揮して異議を唱えたらどうなるでしょう?・・・

「正論を言っていたら実務が回らない、本来は総会当日に配達される分なので無効でいいじゃないか、今までずっとこれでやってきたのだからここで方針を変えたら過去の大量の実績に説明がつかない・・・」先輩や直属上司から矢継ぎ早にこのように忠告される場面が目に浮かびます。

「頭のいい人」は、このような場面を想像して、そのまま黙っているのかもしれません。

 

これまで数多く報じられてきた有名企業における品質偽装や検査不正などの不祥事においても同じことが起きていたと考えられます。

これらの事件の調査報告書を読むと、社内で事前に問題提起があったにもかかわらず葬り去られたケースもあれば、内部通報制度があるにもかかわらず何故か一切使われていなかったケースもありますが、いずれにしても、「組織の誤りの渦中にいる個人は何ができるのか?何をすべきか?」という点では今回のケースと共通していると考えます。

 

残念ながらこの問題に対する「答え」を今の私は持ち合わせていません。

ただ言えることは、強い自立心、職を失うリスクも省みない勇気と裏付けを持った人でないと「正義の行動」は難しいと感じます。

「組織の問題」「経営の責任」であることは明白です。

しかし、真面目な会社はこれまでも相当な努力をしてきたはずです。

コンプライアンスに関する経営理念を示し、専任の組織を設け、全役職員を対象に研修を繰り返し、内部通報制度等の仕組みを作っている企業の多くが問題を起こしているのが現実です。

また、今回の件も含め、経営層は「知らなかった」「報告がなかった」と言う話ばかりです。

 

「渦中にいる個人」、これが未踏のテーマと感じる次第です。

 

#不祥事 #コンプライアンス #組織と個人