「3H?」・・・「H」で始まる3つの語句だということは想像できても、具体的な内容を聞いたことがある方は少ないのではないでしょうか?
仕事の中でミスが起きやすい状況として、「初めて」「久しぶり」「変更」という3つのケースがあり、それぞれの頭文字から「3H」と呼ばれているものです。
オフィスで起きる事例に基づき、ミスを起こさない仕事の取り組み方を具体的にご説明します。
事務などのオフィスワークでの「3H」を事例を見てみましょう。
まず、「初めて」のケースとしては、新しいサービスや商品のスタートに伴う事務処理、お客さまからの個別の依頼に基づく通常とは異なる処理などが考えられます。これらをあいまいな状態で処理をしてしまうとミスにつながりますので、しっかりとした管理が必要です。
「久しぶり」のケースとしては、やり方は決められているけれども稀にしか発生しない取り扱い、または制度上の理由などで「3年に1回しか発生しないケース」などが考えられます。これも、あやふやな記憶や理解のままで処理をしてしまうとミスにつなるリスクがあります。
また、業務の中ではルール、サービス、組織体制、システム処理方法などの「変更」に伴い、事務処理の内容や手順の変更が必要になるケースがあります。これらの変更が未対応、または変更されたことを関係者が知らないままという状態では危険です。
以上で3つの「H」のイメージがつかめたと思います。
それでは、このようなケースが発生した場合にどのように対応すれば良いのか、について考えてみましょう。
まず、その仕事を実際に行っている担当者(個人)としてなすべきこと、またその業務を行っている組織(上司、管理者)としてなすべきことに分けて整理するとポイントが明確になります。
担当者(個人)としては、「初めて」や「久しぶり」であること、言い換えると自分が自信をもって扱えないケースであることをしっかり認識することが重要な第一歩です。
この認識を確実に行うためには、通常の処理内容、手順を正確に理解していることが前提になります。これがしっかりできていれば、いつものやり方ではできそうもない、何か違う、と感じることができます。
その上で、「何か違う」「何か変だ」という感覚を鍛えることも求められます。これに関連した取り組みについては後ほどご説明します。
自信をもって処理できないケースであることを認識したら、次は一旦仕事の手を止めて手を挙げるという行動が求められます。ちょっと勇気が要りますが、思い切って手を挙げましょう。そして先輩や上司に報告し、その指示に従って正しい処理方法を確認してから作業を再開します。
次に、組織(上司、管理者)としての課題を見てみましょう。
重要なポイントの一つ目は、先ほどご説明した、担当者が「初めて」「久しぶり」であること感じて手を挙げた際にきちんと受け止めるということです。「忙しいから自分で考えてやれ!」では思い切って手を挙げたことが無駄になってしまいます。
そして、正しい手順の確認方法を確認します。すぐに正解が見当たらない場合は、関係者が集まって複数の目で確認します。答えが出たら、担当者が納得できるまで丁寧に説明して作業を再開します。
その組織にとって初めて扱うケースであれば、受け入れた時点でそれを判定し、通常の流れから外して手順の策定を優先する仕事の流し方、管理体制をつくることも重要な課題です。
また、発生頻度が低いために「久しぶり」となりやすいケースについては、日ごろから「こういうケースもたまにあるから、そのときはこの手順書のこのページに従って処理する」などを定例ミーティングやミニ勉強会などを活用してお互いに確認しあうことも効果的です。
法令や制度のルールなどに基づき2~3年に1度発生することが決まっているようなケースについては、あらかじめ期日管理をして事前に手順書を活用して予習します。
業務を行う中で、関連する法令、制度、ルールの改正、サービス内容やシステム処理の改定、担当する組織体制の変更などがあった場合には、関連する帳票、システム、作業方法や手順の改定が必要となります。その変更の影響が及ぶ範囲を漏れなく特定し、変更ポイントが正しく反映されるように改定しなければなりません。
この管理を正しく行うためには、これらの変更が発生したことが必要なセクションや担当に迅速・正確に伝わる体制が必要ですが、担当セクションでも、日ごろからアンテナを張って積極的に情報を取りに行く姿勢が求められます。
そして、その情報に基づき、どのような範囲で影響が及ぶか、言い換えると、何をどのように改定すべきかを的確に判断する必要があります。
特に帳票や手順書の改定はつい遅くなったり漏れたりする傾向がありますので、それを防止するためには管理担当を決めた上で、定例打合せ等で変更関連の報告があった場合には改定が必要な項目をメンバー(複数の目)で確認します。
そして、変更に伴い帳票や手順書等が改定された事実とその内容については、速やかに関係者に周知します。
先ほど、「何か違う」「何か変だ」と感じる感覚が大切と述べました。これは「違和感」と言い換えることもできます。たとえば毎日の生活の中でも、家族、友人、同僚の表情やしぐさがいつもと違った場合に「どうしたの?」と尋ねることによって、相手が体調不良や悩み事を抱えているなどの問題を知るのと似ています。
「何か違う」「何か変だ」の感覚は、仕事の中で「危ない!」「大丈夫か?」と感じることとも密接に関連しています。
仕事の中で、似ている帳票を取り違えそうになる、紛らわしい名称や数字を見間違えそうになるなど、ミスには至らなかったが「ヒヤリ」や「ハッと」する体験は誰にでもあるものです。
このような体験をした人はミスが起きる前に気が付いたことにほっと胸をなでおろすとともに、「危なかったから今後気を付けよう」と意識すると思いますが、これを他のメンバーと共有できれば、チーム全体でミスを未然に防ぐ効果が発揮されます。
またこのような体験を「恥ずかしいこと」としてしまい込むのではなく、「ミスを防ぐための重要な情報」として報告し合う、さらにその情報をもとに未然防止策を実施することが、チーム全体の前向きなムードにつながります。
これと似た取り組みに「危険予知」の活動があります。工事現場などでは、毎日の朝礼で「今日からクレーン車が入りますので、足元だけではなく頭上にも注意して作業します」のような報告を行っている光景を見かけます。工事の工程がすすむに伴い、何が危険か?というポイントは日々変化しますので、このような活動はとても重要な意味を持っています。
オフィスワークにおいても、取引量が急に増える、システムで特別なオペレーションが入る、法令改正に伴い処理法が変わるなど、仕事に影響する出来事が起きることが珍しくありません。このようなときに、その影響が及ぶ範囲、それに伴う注意事項などを朝礼等で確認することでミスやトラブル防止が可能となります。さはらに、このような影響に伴ってどのようなミスやトラブルが起きやすいか?というイマジネーションが広がればより効果が増します。
「ヒヤリ・ハット」や「危険予知」は、できればゲーム感覚で明るくやりたいものです。「すみません、ヒヤリハットを体験してしまいました。」などという後ろ向きのムードでは続きしません。これらの情報を提供してくれた人を拍手で囲むような雰囲気が作れればしめたものです。
株式会社オフィスソリューション 代表取締役 宮﨑敬 (みやざきたかし)
【経歴】
1979年 早稲田大学法学部卒業、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社
証券代行、外国証券管理等の事務サービス業務領域で現場マネジメントを経験
2004年〜 グループ内関連会社4社において常務取締役を歴任
事務マネジメントに関する経験と研究成果を「事務学」として体系化
社内外での講演、セミナー、業務改善プロジェクト指導の実績多数
失敗学会(特定非営利活動法人)およびリスクセンス研究会(同)の活動を通じて、事故防止、健全な組織づくり等を研究
早稲田大学理工学術院創造理工学研究科修士課程(経営工学)2011年修了
2011年~ グループ内研修会社にて研修開発・講師を5年間担当し好評を得る
2016年 同グループを定年退職し、株式会社オフィスソリューションを設立
【所属学会】
公益社団法人 日本経営工学会 http://www.jimanet.jp/
一般社団法人 日本品質管理学会 https://www.jsqc.org/index.php
一般社団法人 日本システムデザイン学会 https://www.sdsj.sci.waseda.ac.jp/
株式会社オフィスソリューションは、事務ミス防止、オフィスワーク人材育成、働きやすい職場づくりなどのテーマに関する研修、コンサルテーションをオンラインでご提供しています。
オフィスワークマネジメントに必要な知識、改善手法、実践ポイントを体系的にまとめたノウハウを、今日からの実践に結びつける「オフィスマイルメソッド」の形で分かりやすくご説明し、ご好評をいただいております。
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