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衆議院選挙と事務ミス

選挙に関する報道に中には「事務ミス」に関するものも見られます。今回の衆議院選挙事務における状況をネット検索したところ、22の市町村でミスに関する報道が確認できました。同じ都道府県内で12件、または同じ市内で6件という多発事例もありました。ミスの内容としては、投票用紙の二重交付、小選挙区と比例代表の用紙取違交付、期日前投票における投函先投票箱種別取り違えなどが目立ち、勘違いによる集計ミスで開票が4時間以上遅延したケースもありました。また、事例の半数強が、期日前投票または不在者投票で起きています。報道記事の情報だけでは限界があるものの、分析にチャレンジしてみました。お忙しい方はは最後の「まとめ」だけでもお読みいただければ幸いです。

選挙日程の「厳しさ」は政治家先生だけではない

今回の選挙日程は、10月14日(木)の衆議院解散後、翌週19日(火)には公示が行われ、さらにその翌週の週末(日曜日)が投票日という過密スケジュールとなりました。これに伴い、投開票事務の準備時間も極めて限られていました。公示日の翌日からは期日前投票が可能となることから、その準備は土日を挟む5日間しかなかったわけです。
ミスが続いたある都道府県の選挙管理員会書記長も「解散から公示まで過去最短でバタバタしていたこともあるが・・・」とコメントしています。もちろん、解散前からある程度の見積もりは可能ですが、お役所の世界は正式なゴーサインが出なければ動けないでしょうから、関係者の悲鳴が聞こえてきます。

仕事の環境を考える

また、今回はコロナ感染症対策を徹底しながらの投票所運営であったことも影響していると考えられます。
ビニールシート越しの受付にマスクと手袋の職員が待ち受ける投票所で、有権者も「三密」を意識しながらの行動となりました。時間帯により有権者が集中して受付が混雑した場合は、職員も混雑回避に気を使ったと推測します。ミスが起きた市町村の関係者コメントの中には「混雑のため急ぎ、確認が不十分だった」というものも見られます。
そして、投票が無事に終了しても、その後には開票、集計という大イベントが控えています。
開票速報に衆目が集まる中、時間のプレッシャーは並大抵ものではないと想像できます。
また、これとは別の問題ですが、期日前投票で起きたミス事例の中には、車いすや点字での投票が各1件ずつ含まれており、障害者への配慮や特別の対応に注意を要する結果、事務ミスが起きやすい状況となっていた可能性が考えられます。

システム、ツールは活用されていたのか?

私が住む街の投票所では、受付の担当者が入場券を確認したあと、手元の装置から投票用紙を取り出して渡す方法がとらていました。
この、自動交付機と呼ばれる装置をネットで検索すると「1枚ずつ正確に」「色で用紙を判別して」という機能により、投票用紙の交付を確実に行える機能が備わっていると説明されています。
しかし、今回調査したミス事例では、「手で交付」という報道が複数みられた。また、これに関連して、過去に選挙事務でのミスが連続したことから今回の選挙の体制づくりがニュースとして取り上げられた市町村でも、「本来は受付に4台必要な交付機が3台しか行きわたらない」と報じられていました。幸いこの市町村では今回の選挙でのミス事例には登場しませんでしたが、機械を使えばかなりの確度で事故を防止にもかかわらず、残念な話です。
また、すでに期日前投票をすませているかどうかを受付でチェックできるシステムも使われているようですが、今回の調査で見られる「二重交付」の事例は、いずれもこれを使っていなかったために起きたと考えられます。
一方、システムもあくまで道具ですから、そのセッティングを間違えると大量のエラーが生み出される結果となります。入場券を郵送する際の宛名に使われる世帯データと、同封される入場券(個人データ)がずれていたために、約200世帯に誤送付が発生し、職員が回収と再交付に歩き回った事例もありました。
このような事故は、最近年金通知でも起きており、機械化の落とし穴として注意が必要です。

ミス発生後の対応、体制は?

このように、現状の選挙事務はシステムや機械の活用が不十分、作業時間が切迫という厳しい条件で行われており、さらに今回の衆議院選は事前準備時間がほとんどない状態でスタートという、極めてリスクが高い状態であったことが分かります。
そして、ミスが起きた選挙管理員会の責任者からは「自分の受け持った業務をしっかり慌てずにやっていれば防げた・・・」、「携わった職員の不十分な確認や思い込みなど、ケアレスミス」などのコメントが出され、また、最もミスが多かった都道府県では投票日の2日前のオンライン緊急会議で「適正な管理執行を求めた」と報じられています。「注意していればできるはずだから、しっかりやってくれ」という号令だけで歯を食いしばって走り続けている姿が目に浮かびます。

まとめ

選挙管理委員の要件は「人格が高潔、政治および選挙に公正な識見を持つ」と総務省のウエブサイトに書かれています。しかし、どんなに「高潔な」人でも、人間である以上、間違えることがあります。仕事がピークに達する場面で注意喚起の号令で緊張感を煽っても問題は解決しません。
人間は間違えることがある、ヒューマンエラーは必ず起きるという前提に立ち、対策を講じる必要があります。
今回の調査結果から学ぶべきことを以下に整理します。
  1. 仕事の中でヒューマンエラーが起きるリスクが高まる状況を予測し、実際の状況を認識する。
    • 時間の切迫、いつもと違う条件で作業を行う場合など
  2. ミスが起きた場合には、当事者を責めるのではなく、関係者が集まり、ホンネを含めて納得いくまで原因を掘り下げる
  3. リスクを低減するためには、手順の明確化、ダブルチェックの励行(方法も重要!)を徹底する
  4. 機械、システムはお金がかかるが、ミスが起きた後の影響(謝罪ですまないこともある!)を十分考慮して活用する
    • 仕事量を見積もって、仕事の手順、人員、道具を準備することが事故防止の大前提
  5. ただし、機械やシステムのセットを間違えるとエラーが大量生産されるので、設定の手順、ダブルチェックはさらに重要
    • システムの仕様を文書で共有し、設定は指差し確認でダブルチェック
日本全国の市町村で同じ事務が行われているのですから、ミス事例の共有と改善策の横展開を行えば相当効果が発揮できるはずです。何よりも大事なのは「失敗情報」を共有しながら、再発・未然防止に活用する前向きな取り組みを行う方針と風土です。
関係者の方々は、是非この記事をお読みいただき、具体的な対応に着手していただきたいと願う次第です。
また、オフィスワークに携わる方々は、これを「他人事」とせずに、自らの仕事の事故防止に役立てていただければ幸いです。
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オフィスワークでミスが起きやすい状況やミス防止の具体的な取り組み方を、著書「これからのオフィスワークマネジメント」でご説明しています。

弊社では、事務ミス防止のテーマで、オンデマンド動画、オンライン研修、オンラインコンサルテーションをご提供しています。